職人の一言

2017.04.09.10:00

 建築士がお施主さんのご厚意で開催する見学会には大工さんも応援に来てくれることがあります。
 建築士は説明だけだったらまとめて話すこともできますが、みなさん聞きたいことがありますから建築士一人だけでは大変です。
 私もお願いして見学会に出向いたときにこんな一コマがありました。

 大工さんがお客さまに柱について説明しています。
 「この柱はたまたま見つけたのでここにしました。」
 これだけでは何のことだか分からないので少し説明するとお施主さんの家も真壁仕様なので柱が表に出ています。

 普通は柱の3面が壁などに隠れてしまいますがリビングにある1本の柱は4面とも見える場所に立っています。
 家に使われている柱は節がある芯持ち材でしたが、リビングにある1本の柱には節が見当たりませんし、薄い化粧板を張ったつき板柱でもありません。

 つまり4面無節柱(超高級品)です。
 大工さんはこの超高級柱をたまたま見つけたのでこの位置にしました。と言っていたわけです。
 この話を聞いていた私は大工さんにもう少し説明をしてほしいと思いました。
 というのは、大工さんは作業場で家に使われる柱や梁を全部並べてどれをどこに、どの向きに使うのかを一本ずつ決めていきます。

 柱が100本あるとすると柱だけで400面をみていることになりますし、梁もあります。
 よく見える場所には色が揃った柱の綺麗な面が表になるように、隠れて見えない場所にはそれほど見栄えを気にしなくても良い材料と全部見て決めていきます。

 番付は見ていると静かな作業ですが大工さんの頭の中はフル回転です。
 そんな大変な作業の結果選ばれてリビングに決まった柱なのですが、見学会では「たまたまみつけた・・・。」になってしまいます。
 これが営業担当だったら違う言い方になったと思います。

 また、林業家にも似たところがあります。t_DSC_4224.jpg
 わが家には8寸角(24㎝角)の太い柱が2本あります。
 大黒様が2人いるのはおかしいと言うことで一本は大黒柱、もう一本は恵比寿柱と呼ぶこともあるそうですが、呼び方はさておき太い柱が2本あります。

 わが家の木のふるさとを訪ねたときに林業家が天然乾燥中の太い柱について説明をしてくれました。
 一本の太い柱を指さして「この木はいい木だよ。」と言ってくれました。
 当時(平成16年頃)はへぇ~と言うくらいにしか捉えることができませんでしたが、新築後も続いている林業家や大工さん、建築士とのおつきあいの中で林業家がたくさんある材料の中でどうしてあの一本の柱だけ指したのかが分かってきました。

 一本の木からは柱や梁、板も取ることができます。
 しかし、柱に向く木もあれば梁に向くもの、板に向くものなどそれぞれ木の個性によって向き不向きがあります。
 また、柱と言っても4寸、8寸など太さや長さによっても選び方が変わってくるそうです。
 8寸角で長さ6メートルの柱となると加工分を含めてもっと長くて太い木を用意することになります。

 長くて太くてしかもまっすぐな木と書けば数文字ですが山の傾斜地で100年近く風雨に耐えてきた植物としての杉がまっすぐに育つというのは無理が多い内容です。
 現場でも大黒柱として使える木は2000本伐採して10本あるかないかという1%未満の話だそうです。

 その中でもたまたま100年間周囲の木の並びや育ち方など様々な要因が重なって偶然まっすぐに伸びる木が出てくるそうですが先ほどの1%未満のさらにもう一桁小さい数になってしまうそうです。
 林業家が言ってくれた「この木はいい木だよ。」の一言にはとても深い意味があったことをずっと後になって知りました。

 大工さんや職人さん、林業家は私たち住まい手のために目に見えない努力や苦労をしてくれています。
 営業担当者のようには話してくれませんが、建築士は住まい手と大工さんや職人さん、林業家をつないでそれぞれの仕事や役割を紹介してくれます。

 見学会は住まい手と建築士の出会いの場でもあります。
 家を見ることをきっかけに建築士に今まで聞いたことや思っていることについて尋ねてみると意外な話が聞けるかもしれません。
 木の家に住み始めて10年を超えて振り返ってみると私が当時思っていたことには随分誤解と思い込みが多かったように思います。

 建築士や林業家、大工さん、職人さんからわが家のことを学ぶ中で誤解や思い込みが減っていき住まい手としても上手に家が使えるようになっていきました。

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